うちのうさぎは、わりと冷たい。
呼んでも来ないときは来ない。
完全に無視である。
「おい」
と思うが、来ないものは来ない。
しかし、機嫌がいいときはめちゃくちゃ寄ってくる。
なでろ、という顔で見てくる。
つまりこのうさぎ、
自分に正直すぎる。
人間だったらこうはいかない。
たとえば職場。
本当はこう思っている。
「帰りたい」
でも口から出るのは
「大丈夫です」
なぜなのか。
社会というのは、「大丈夫です」を言うゲームだからである。
僕もずっとやってきた。
疲れていても「大丈夫です」
嫌でも「大丈夫です」
もはや「大丈夫です職人」である。
しかし、うさぎは違う。
疲れていたら来ない。
嫌なら近づかない。
とても分かりやすい。
そして何より、
それでも普通に愛されている。
ここで一つの疑問が生まれる。
人間、無理しすぎじゃないか?
ある日、うさぎを呼んだ。
来なかった。
完全スルーである。
だがそのとき思った。
「こいつ、正直に生きてるな」
と。
無理をしていない。
だから疲れていない。
そして、ちゃんと生きている。
それを見て、少しだけ考えた。
人間も、もう少し正直でいいのではないか。
全部じゃなくていい。
少しでいい。
たとえば、
疲れているときに「疲れた」と言うとか。
それくらいなら、許されるはずだ。
たぶん。
少なくとも、うさぎは無理をしない。
嫌なときは来ないし、気が乗らなければ無視もする。
それでも、ちゃんと生きているし、ちゃんと愛されている。
それを見ていると、少しだけ気が楽になる。
人間も、あそこまで正直にはなれない。
でも、ほんの少しくらいなら、近づける気がする。
無理に笑わない日があってもいいし、
「大丈夫です」と言わない日があってもいい。
たぶん、それくらいで世界は壊れない。
今日も僕は、きっとどこかで無理をする。
でも、前より少しだけ、無理をしないでいようと思う。
うさぎがそうしているみたいに。