うさぎのカミは、ウルトラマンを“悪い人”だと言った
ある日、部屋でカミを遊ばせながら、僕は寝転がってテレビを見ていた。
画面の中では、ウルトラマンが怪獣と戦っている。久しぶりに見る光景なのに、気づけばすっかり見入ってしまっていた。
思えば、子どもの頃からウルトラマンが好きだった。怪獣が街で暴れ、人々が逃げ惑う。そこへウルトラマンが現れて、最後には怪獣を倒す。単純明快なその筋書きが、子ども心にはたまらなく好きだった。
その日も、ウルトラマンはビル街で怪獣と戦っていた。
「おぉ、ウルトラマン強ぇなぁ」
僕がそう言うと、近くでチモシーを食べていたカミが、急にテレビを見ながら言った。
『ご主人様』
「ん?」
『あれ、なんで急に殴ったんですか?』
「え?」
テレビを見ると、ウルトラマンが怪獣の背後から飛び蹴りをしていた。
「いや、怪獣だからな」
『怪獣なら、いきなり蹴っていいんですか?』
「いや……だって街を壊してるし」
『でも、お話してないですよね?』
僕は少し黙った。
たしかに、ウルトラマンは会話をしていない。
問答無用で飛びかかっていた。
『もしかしたら、理由があるかもしれないじゃないですか』
カミは真面目な顔でそう言った。
「理由?」
『お腹が空いてたとか』
「いや、でかすぎるだろ」
『じゃあ道に迷ったとか』
「200メートルのサイズで?」
『じゃあ、すごく悲しいことがあったとか』
「情緒不安定な怪獣かよ」
カミはしばらく考え込んでいた。
そして、ぽつりと言った。
『でも、いきなり暴力はひどいです』
その瞬間、テレビではウルトラマンが必殺光線を出していた。
怪獣は爆発した。
僕は子どもの頃から見慣れていた光景だったけど、その日は少し違って見えた。
『死んじゃいましたよ……』
カミが小さな声で言った。
「まぁ……地球を守るためだから」
『でも、ご主人様』
「ん?」
『地球を守るためなら、相手を殺していいんですか?』
僕はまた黙った。
正義の味方なんだから、悪を倒すのは当たり前。
ずっとそう思っていた。
でも、改めて聞かれると、うまく説明できなかった。
『僕だったら、まず話します』
カミはそう言って、またチモシーを食べ始めた。
「話して通じなかったらどうする?」
『それでも、最初から殴るよりはいいです』
「でも怪獣だぞ?」
『うさぎだって、急に捕まえられたら暴れますよ』
「それは……まぁそうか」
『怖いから暴れるのかもしれないし』
カミは、まるで人生相談でもするみたいに淡々と話していた。
しばらくして、カミがまたテレビを見ながら言った。
『てゆうか、あの人、3分で帰るの無責任じゃないですか?』
「それは仕方ないんだよ」
『カップラーメンじゃないんだから』
僕は吹き出した。
カミは真剣だった。
『ご主人様』
「ん?」
『正義って、難しいですね』
その言葉だけ、今でも妙に覚えている。
もちろん、僕は今でもウルトラマンは嫌いじゃない。
たぶん、これからも見ると思う。
でも、カミと話してから、怪獣が倒されるシーンを見るたびに少し考えるようになった。
この怪獣にも、事情があったのかなって。
カミは、優しいうさぎだった。
人参を取られると本気で怒るくせに、誰かが怒っている空気は嫌いだった。
だからといって、ウルトラマンが悪いと言いたかったわけじゃない。
ただ、
『まずは話したらいいのに』
そう思っただけなんだと思う。
今でも、テレビでヒーローが敵を倒すシーンを見ると、たまに思い出す。
もしカミが隣にいたら、また難しい顔でこう言うんだろう。
『ご主人様。あれ、本当に正義なんですか?』って。