我が家には優秀な管制塔がいる。
名前はカミ。
職業はうさぎだ。
普段はほとんど働かない。
牧草を食べる。
寝る。
少し移動する。
また寝る。
たまに「撫でろ」という圧力をかけてくる。
それが主な仕事である。
ところが、そんなカミにも本気を出す瞬間がある。
それが玄関のピンポーンだ。
「ピンポーン」
と鳴った瞬間。
耳が立つ。
顔が上がる。
身体が固まる。
そして玄関の方向を見つめる。
誰よりも早い。
人間より圧倒的に早い。
我が家で最初に異変へ気づくのは間違いなくカミだ。
一方、人間はどうか。
テレビを見ている。
スマホを見ている。
ゴロゴロしている。
誰も動かない。
誰も危機感を持たない。
むしろ、「誰か出て」と責任の押し付け合いが始まる。
するとカミは思っているかもしれない。
「おい」
「今、何か来たぞ」
「気づいているのか」
と。
でも誰も反応しない。
カミだけが緊張している。
人間たちは平和そのものだ。
私がカミだったら少し腹が立つ。
毎回毎回、自分だけ警戒しているのだ。
敵かもしれない。
侵入者かもしれない。
宅配便かもしれない。
とにかく何かが来た。
だから警戒する。
それなのに人間たちは、「あとで出ればいいか」くらいの顔をしている。
カミからすると、「この家、本当に大丈夫か?」と思っていても不思議ではない。
実際、考えてみればカミは何も間違っていない。
知らない音がしたら警戒する。
これは野生動物としては正しい反応だ。
むしろ人間の方がおかしい。
私たちは毎日いろいろな音を聞いている。
車の音。
スマホの通知。
テレビの音。
宅配便。
インターホン。
あまりにも慣れすぎている。
だから少々のことでは反応しなくなった。
でもカミには関係ない。
ピンポーンはピンポーンだ。
毎回初見みたいな顔で警戒する。
その真面目さは見習うべきなのかもしれない。
ただ、ひとつだけ気になることがある。
あれだけ警戒したあと、何事もなかったと分かると、すぐに寝るのである。
さっきまでの緊張感はどこへ行ったのか。
耳を立てていたと思ったら、数分後には横になっている。
まるで、
「危険なし。任務完了。」
と言わんばかりだ。
そしてまた寝る。
その切り替えの早さもすごい。
人間だったらそうはいかない。
嫌なことがあると引きずる。
怒られると引きずる。
失敗しても引きずる。
夜になって思い出してまた落ち込む。
なのにカミは違う。
警戒するときは全力で警戒する。
終わったら忘れる。
寝る。
実に合理的だ。
もしかしたら危機管理能力だけではなく、生きる能力そのものが高いのかもしれない。
今日も玄関のピンポーンが鳴る。
きっと最初に反応するのはカミだろう。
そして私たちはいつも通り思う。
「あ、誰か来た」
ではなく、
「カミが反応したから誰か来たんだな」
と。
我が家の管制塔は、今日も変わらず優秀である。