最近、うちのうさぎのカミの目つきが悪い。

発情期のせいだと思う。

いつもなら、ご飯を食べてゴロンしているだけの平和主義うさぎなのに、この時期になると急に空気が変わる。

近づくと、

「そこ、俺の場所なんだけど?」

みたいな顔をする。

しかも、やたら強気だ。

部屋の真ん中で座っているだけなのに、「この家を支配しているのは俺だ」と言わんばかりの雰囲気を出している。

「いや、家賃払ってるの僕なんだけど」と言いたくなる。

でも、そんなことはカミには関係ない。

うさぎの世界では、「先にそこにいた者」が強いのだ。

お気に入りの場所に僕が座ろうものなら、露骨に不機嫌になる。

「どけ」という圧を出してくる。

しかも面白いのが、普段なら僕が近づいても気にしないお気に入りの場所なのに、発情期になると急に態度が変わることだ。

昨日まで、

「まあ、そこ使っていいよ」

くらいの空気だったくせに、今日は、

「おい、そこは俺の席だぞ」

みたいな顔で見てくる。

うさぎ界にも、“急に店のオーナー感を出す時期”があるらしい。

完全に面倒くさいタイプの男である。

でも、カミを見ていて思った。

人間も、結局これをやっているのかもしれない。

縄張り争いだ。

たとえば会社。

自分の仕事に口を出されると、なんとなくイラッとする。

SNSでもそうだ。

自分の好きなものを否定されると腹が立つ。

「その考え方は違う」

と言われただけなのに、なぜか“自分自身”を攻撃された気分になる。

でも、それって結局、

「ここは自分の場所だ」

と思っているからなのだ。

人は、居場所を守ろうとする。

自分の考え。

自分の仕事。

自分のプライド。

自分の立場。

全部、“心の縄張り”なのかもしれない。

だから人間は、すぐ戦う。

マウントを取ったり、勝ち負けにこだわったり、「自分のほうが正しい」と証明したくなる。

 

そんなことを考えていたら、カミが突然、足をダン!と鳴らした。

どうやら僕が近づきすぎたらしい。

うさぎの「足ダン」は、

「不満」

「警戒」

「気に入らない」

などを伝える行動だ。

つまり今、僕はうさぎにキレられている。

ご主人様なのに。

しかも、そのあとカミは僕を睨んだ。

そして、なぜか自分のお気に入りスペースに行って、安心した様子で丸くなって寝始めた。

「グー。グー。ピーッ。ぴーっ」

いや、さっきまでの威嚇はなんだった。

人間ならこうはいかない。

人間は一度イラつくと、長い。

昨日のLINE。

三日前の一言。

半年前の態度。

ずっと覚えている。

そして脳内で何度も戦う。

でも、うさぎは違う。

怒っても、数分後には寝る。

引きずらない。

「今、安全か」

しか考えていない。

だから、必要以上に争わない。

そう考えると、人間は縄張りを広げすぎなのかもしれない。

会社でも認められたい。

SNSでも認められたい。

友達にもすごいと思われたい。

世間にも負けたくない。

いろんな場所で、“自分の縄張り”を守ろうとしている。

だから疲れる。

カミは違う。

自分のお気に入りの場所があって、お腹いっぱい食べられて、安心して寝られれば、それで満足そうだ。

もちろん、人間はうさぎみたいには生きられない。

働かないといけないし、人間関係もある。

でも、カミを見ていると、ときどき思う。

「そんなに全部の場所で勝とうとしなくてもいいのかもしれない」

と。

自分が安心できる場所。

落ち着ける人。

好きな時間。

それをちゃんと持っているだけで、人は案外、生きていけるのかもしれない。

ちなみに今、カミは僕のクッションの上で寝ている。

完全に奪われている。

でも、気持ちよさそうに寝ているので、それでもいいと思っている。

こうやって少しずつ、僕の縄張りは、うさぎに支配されていくのである。