カミの一日は、だいたい同じことの繰り返しだ。

食べる。寝る。起きる。うんちをする。そして、また寝る。

たまに部屋を歩き回ることもあるけれど、何か大きな目的があるようには見えない。ひと通り動き回ると、満足したように寝そべっている。

そんなカミを見ていると、ふと思う。

それでいいのか、カミ。

僕はカミに「目標」を聞いてみた

僕たち人間は、何かを達成することに価値を感じる。

仕事で成果を出す。新しいことを覚える。昨日より成長する。目標を立てて、それに向かって努力する。

そうやって少しずつ前に進むことが、充実した人生につながると考えている。

だから、食べて寝て、うんちをしているだけのカミを見ると、つい考えてしまうのだ。

この子は、このままの人生で満足なのだろうか。

ある日、僕はカミに聞いてみた。

「カミ、何か目標はないの?」

カミは、こちらを見た。

「立派なうさぎになりたいとか、もっとすごいうさぎになりたいとか、そういうのはないの?」

カミは何も答えない。

まあ、答えないのはいつものことだ。そもそも、うさぎにそんな質問をする僕のほうがどうかしている。

それでも、もしカミが人間の言葉を話せたら、こんなことを言うかもしれない。

「立派なうさぎって、なんだよ。僕はもう、うさぎだけど」

なるほど。

たしかに、カミはすでにうさぎだ。しかも、なかなか堂々としたうさぎである。

それなのに僕は、カミが今のままでいることを、どこか物足りなく感じていた。

もっと何かを目指したほうがいい。何かを身につけたほうがいい。今より立派になったほうがいい。

そんな人間の物差しを、いつの間にかカミにも当てはめていたのだ。

考えてみれば、僕たちは自分自身にも同じことをしている。

何かを達成すれば、次の目標を探す。目標がなければ、何もしていないような気がする。周りの人が前に進んでいるように見えると、自分だけが取り残された気持ちになる。

休んでいる時間さえ、無駄にしてはいけないと思うことがある。

もちろん、目標を持つことは悪くない。挑戦することで見える景色もあるし、努力したからこそ得られるものもある。

ただ、何かを目指していない時間まで、価値のないものにしてしまう必要はないのではないか。

そんなことを考えながらカミを見ると、本人は相変わらず寝そべっていた。

僕があれこれ考えている間も、カミの一日は続いている。

眠くなれば寝る。起きたら動く。気が向けば周りを眺める。

少なくとも、僕にはカミが「このままではいけない」と焦っているようには見えない。

もし今の暮らしについて聞いたら、こんな返事が返ってくるのかもしれない。

「僕は僕の生き方をしている。お前はお前の生き方をすればいい」

……なんだか、深い。

ただ寝ているだけのカミが、急に人生の師匠に見えてきた。

とはいえ、カミは僕に何かを教えようとしているわけではないだろう。そもそも、僕が人生について悩んでいることすら知らないはずだ。

それでも、カミを見ていると、自分が当たり前だと思っていたことを少し疑ってみたくなる。

何かを成し遂げた日だけが、いい一日なのだろうか。

成長を実感できない日には、意味がないのだろうか。

そんな壮大なことを考えていた、そのとき。

カミがむくりと起き上がった。

おっ、何か始めるのか。

つい期待してしまう。

カミはゆっくり歩き出し、部屋の隅へ向かった。

そして、うんちを二、三個した。

その後、何事もなかったように元の場所へ戻り、再び寝そべった。

……なるほど。

これが、カミの生き方か。

目標もない。成果を振り返ることもない。今日の自分を反省することもない。

ただ、自分の一日を生きている。

そして、やるべきことをやったら寝る。

「どうだ。これが僕の生き方だ」

「文句あるか」

カミがそう言っているような気がした。

「……ありません」

僕は素直に答えた。

何も成し遂げなくても、一日はちゃんと一日だ

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食べて、寝て、うんちをする。それだけの一日でも、カミは毎日、堂々と生きている。
それを見ていたら、何も成し遂げなかった日の自分にも、少しだけ優しくなれる気がした。

何かを達成した日だけが、いい一日ではない。
昨日と同じように過ごした一日にも、それなりの価値はある。

カミは今日も、そんな僕の悩みなど気にする様子もなく、すやすやと眠っている。

今日も、カミの人生は順調だ。