「世界を広げたほうがいい」と、人はよく言う。いろんな経験をしろ、たくさんの人と出会え、外へ出ろ、挑戦しろ。たしかに、それは間違っていないと思う。世界が広がることで人生が変わる人もいるし、新しい出会いに救われることもある。僕も、それ自体を否定したいわけじゃない。

でも、うちのうさぎのカミを見ていると、ときどき思う。「本当に、世界ってそんなに広げ続けなきゃいけないんだろうか」と。

カミの世界は、小さくて、穏やかだ

うさぎは基本的に、大きな世界を好まない。知らない場所へ行くと警戒するし、初めて見るものには慎重になる。落ち着くのは、いつもの場所だ。お気に入りの隅、安心できる匂い、毎日通るルート。そこにいるときのカミは、本当に穏やかで幸せそうに見える。

人間からすると「もっと広い場所へ行けばいいのに」と思う。でもカミにとっては、その小さな世界こそが、自分らしく生きられる場所なのだろう。

人間は、広い世界にいる人ほど評価される

知り合いが多い、仕事が大きい、影響力がある、いろんな場所へ行っている。そういう人を見ると「すごい」と思う。そして、自分ももっと世界を広げなきゃいけない気持ちになる。

でも、その途中で、自分が本当に好きだったものを見失うことがある。

静かに絵を描く時間が好きだった。小さな店でのんびり働くのが好きだった。一人で本を読んでいる時間がなにより好きだった。そういうものがいつの間にか後回しになって、「もっと成功しなきゃ」「もっと認められなきゃ」ばかり考えるようになる。そして気づけば、自分がやりたいことではなく、他人から評価されることを追いかけ始める。

もちろん、お金は必要だし、生活しなければいけない。「好きなことだけして生きよう」と言いたいわけじゃない。ただ、”他人からすごいと思われる人生”と”自分が納得できる人生”は、必ずしも同じではない。そこを間違えると、じわじわと苦しくなる。

カミには、焦りがない

カミは他人に評価されようとしない。「もっと大きな世界へ行こう」ともしない。お気に入りの場所を見つけると、そこで落ち着いて過ごしている。眠いと寝る。食べたいと食べる。嫌なことは嫌がる。それだけだ。

でも、見ていると、そこには妙な強さがある。

人間は「もっと大きくならなきゃ」と焦る。でもうさぎは、「今いる場所を、安心できる場所にすること」に全力を使う。それは狭い世界に閉じこもっているのとは少し違う。自分がちゃんと心地よく生きられる世界を、静かに作っているのだ。

小さな世界を持つ人は、案外強い

僕は昔、もっと人脈を増やして、もっと結果を出して、もっとすごいことをしなければと思っていた。でも、いつもどこか疲れていた。他人に認められることばかり考えていたからだと思う。

世界を広げることは、今でも大切だと思っている。でも同時に、今いる世界を自分らしく整えることも、それ以上に大切なのかもしれない。自分が落ち着ける場所、夢中になれること、無理をしなくていい人間関係。そういう小さな世界を持っている人は、案外強い。

大きな世界で戦い続けることだけが、人生じゃない。小さくても、自分が安心して笑える世界を作ること。カミを見ていると、それもちゃんと価値のある生き方なのだと、素直に思えてくる。