人間もストレッチをするときは、いきなり全力では伸ばさない。
まず少し伸ばして、
もう少し伸ばして、
最後に「うーん!」と気持ちよく伸びる。
どうやらカミも同じらしい。
まずは軽く準備運動。
「今日はこのくらいかな。」
そんな空気が漂っている。
まだ本気じゃない。
少しずつ伸び始める。
おっ。
来るぞ。
来るぞ。
写真を撮っている私は、この時点で少し興奮していた。
「これは何か面白い瞬間が撮れそうだ。」
そんな予感がした。
きた。
全力。
足がV字。
それだけじゃない。
よく見ると……
尻尾まで上がっている。
そこまで!?
思わず写真を拡大して確認してしまった。
「足を伸ばすと尻尾も上がるシステムなの?」
そんな疑問が頭に浮かぶ。
人間なら、ストレッチをしても尻は勝手に上がらない。
でもカミは違う。
足。
腰。
尻尾。
全部連動。
全身を使って、
「のびーーーーー!」
をしている。
ここで思った。
このストレッチ、たぶん本人は何も考えていない。
「今日はV字を決めるぞ!」
とも思っていない。
自然にやっているだけ。
でも見ている私は、たった数秒でこんなに笑ってしまった。
うさぎって、狙って笑わせようとはしない。
でも、本気で生活しているだけで笑わせてくる。
そこがずるい。
しかも、この写真は一枚では完成しない。
最初の写真だけなら、
「あ、伸びるのかな。」
で終わる。
最後の写真だけなら、
「すごい足だな。」
で終わる。
でも、途中がある。
だから面白い。
少しずつ力をためて、最後に全部伸びる。
まるで映画のクライマックスみたいだ。
そして私は最後の写真を見るたびに、足より先に尻尾を見てしまう。
「今日もちゃんと上がってる。」
そう確認して一人で笑う。
この写真が教えてくれたこと
うさぎと暮らしていると、特別なイベントは意外と少ない。
旅行もない。
誕生日パーティーも毎月あるわけじゃない。
でも、足を伸ばしただけで笑える。
尻尾が少し上がっただけで写真を撮る。
そんな何でもない数秒が、あとから振り返ると一番大切な思い出になっている。
だから私は今でも思う。
カミはストレッチをしていたんじゃない。
私に、
「ほら、今日も笑え。」
と言ってくれていたのかもしれない。