カミを見ていると時々思う。
この能力、何かに活かせないのだろうかと。
普段のカミは本当にのんびりしている。
牧草を食べる。
寝る。
少し移動する。
また寝る。
たまに「撫でろ」という圧をかけてくる。
そんな生活を送っている。
ところがである。
何か気に入らないことが起きた瞬間、突然スイッチが入る。
速い。
速い。
とにかく速い。
さっきまでそこにいたはずなのに、次の瞬間にはもういない。
人間なら、
「え?」
と思っている間に終わっている。そんな速さだ。
あの瞬発力は本当にすごい。
もし人間にもあの能力があったらどうなるだろう。
朝の目覚ましが鳴った瞬間に飛び起きる。
会社に遅刻しそうになったら一瞬で支度が終わる。
上司に呼ばれた瞬間には、もう席の横に立っている。
おそらく出世する。
少なくとも私よりは。
スポーツ界でも活躍できる気がする。
短距離走なんて向いている。
スタートの反応速度だけなら世界レベルだと思う。
よーいドンの「ド」が聞こえた頃には、もうゴールしているかもしれない。
ただ問題もある。
集中力が続かない。
走り始めて10秒後には、「今日はこの辺でいいかな」と牧草を食べ始める可能性が高い。
プロスポーツ選手としては致命的である。
営業職も向いていそうだ。
お客様から電話が来た瞬間に出る。
誰よりも早く出る。
一番乗りで出る。
ただし、その後の会話は期待できない。
「もしもし」
の後は無言で牧草を食べるだろう。
結局クビになる気がする。
そう考えると、カミの能力は人間社会では意外と活かしにくい。
反応速度は抜群。
瞬発力も抜群。
でも仕事をする気はたぶんない。
そもそも本人が働く気ゼロである。
しかし、よく考えてみると、それで正しいのかもしれない。
人間は能力を見つけると、
すぐに仕事に結びつけたがる。
趣味も仕事。
特技も仕事。
好きなことも仕事。
何でも働く方向へ持っていく。
でもカミは違う。
速い能力があっても働かない。
走る能力があっても働かない。
かわいい能力があっても働かない。
ただ牧草を食べている。
そして眠くなったら寝る。
ある意味では理想の生き方かもしれない。
もしカミが人間だったら、「もっとその能力を活かせ」と言われていたと思う。
でもカミはそんなことを気にしない。
今日も自分のペースで暮らしている。
たぶん本人は、自分がすごく速いことすら知らない。
知らなくても困らない。
生きるために必要な時だけ使えばいい。
それがうさぎ流なのだろう。
私は今日も、一瞬で消えていくカミを見ながら思う。
この能力、本当にもったいない。
でも本人が幸せそうだから、まあそれでいいか。