最近、カミに怒られた。
正確には、距離を置かれた。
何をしたのかは分からない。
いや、たぶん分かっている。
爪切りか。
ブラッシングか。
それとも余計な写真撮影か。
心当たりが多すぎる。
とにかくカミは怒っていた。
いつもなら近くでゴロンとするのに、その日は少し離れた場所に座っている。
そして、じっとこちらを見ている。
来ない。
でも見る。
完全に文句がある顔である。
ところが面白いことに、その顔が全然怖くない。
耳は後ろへ倒れている。
前足はきちんと揃っている。
姿勢も妙に良い。
まるで茶道の先生がお辞儀をしているみたいだ。
「失礼ですが、一言申し上げてもよろしいでしょうか」
そんな雰囲気で怒っている。
しかもカミは、怒ると少し距離を取る。
近くには来ない。
撫でようとすると逃げる。
しかし不思議なことに、完全には離れていかない。
部屋の隅に座ったまま、ずっとこちらを見ている。
本当に嫌なら、見えない場所へ行けばいい。
それなのに視界には入っている。
なんだか、
「反省しているなら話くらい聞いてやらんこともない」
そんな態度なのである。
怒っている。
でも関係を終わらせたいわけではない。
その絶妙な距離感が、なんだかうさぎらしい。
そして僕は思った。
人間も本当は同じなのかもしれない。
本当に嫌いになった相手には、怒らない。
何も言わずに離れていく。
怒るのは、まだ相手に期待しているから。
まだ関係を続けたいと思っているから。
もちろん、怒り方にもいろいろある。
言葉で相手を傷つける怒り方。
感情をぶつける怒り方。
でもカミは違う。
ただ、
「それは嫌だった」
と伝えているだけだ。
だから見ていて怖くない。
むしろ少し申し訳なくなる。
そして少しだけかわいい。
そのあと僕はカミに謝った。
「ごめんな」
するとカミは、
「今回は特別ですよ」
みたいな顔をして牧草を食べ始めた。
たぶん許してくれたのだろう。
たぶんである。
うさぎの気持ちは分からない。
でも一つだけ分かったことがある。
怒ることと、相手を傷つけることは別なのだ。
カミは今日もときどき怒る。
そして少し離れた場所からこちらを見る。
その姿は相変わらず上から目線だ。
でも、その上品な怒り方を見るたびに思う。
もし怒るなら、相手を追い詰めるためではなく、気持ちを伝えるために怒れたらいい。
そんなことを、茶道の先生みたいな顔をした一羽のうさぎから教わっているのである。