最近、カミを見ていて思う。
こいつ……何か隠しているな、と。
普段、カミはサークルで囲った部屋の中で生活している。
目を離すと危険なので、基本的にはそこが行動範囲だ。
そして、そのサークルの向こう側には、おやつが入った棚がある。
カミはその場所を知っている。
パパイヤ。
りんご。
大好きなおやつ。
全部そこに入っている。
だから、ときどきサークルの前まで来ては棚の方をじっと見ている。
人間でいうなら、焼肉食べ放題の店の前で立ち止まっているようなものだ。
行きたい。
ものすごく行きたい。
でも入れない。
そんな状態である。
だからカミは毎日のようにサークルの前までやって来る。
そして天井を見上げる。
何かを考えているような顔で。
「どうした?」
と聞くと、
顔は完全にこう言っている。
「別に」
しかし長年一緒に暮らしている僕には分かる。
あれは絶対に、おやつのことを考えている顔だ。
たぶん頭の中では、
飛ぶか……
いや、待て。
飛んだらバレる。
飛べることがバレたら終わりだ。
今のサークルより高くなるかもしれない。
二重サークルになるかもしれない。
最悪、天井が付くかもしれない。
それは避けたい。
そんなことを考えている。
なぜならカミは、サークルを飛び越えられるからだ。
昔、一度だけ本気のジャンプを見たことがある。
その瞬間、僕は思った。
「あ、こいつ飛べるわ」
と。
正直、ちょっと驚いた。
いつもはのんびりしているのに、やる時はやるのである。
しかし、それ以来一度も飛ばない。
飛べるのに飛ばない。
できるのにやらない。
一度だけ能力を見せて、その後は隠し続ける。
まるで少年漫画の強キャラみたいな生き方である。
なぜ飛ばないのか。
理由は簡単だ。
飛べることがバレたら面倒だからである。
今より高いサークルになるかもしれない。
警備が強化されるかもしれない。
自由には責任が伴うことを、カミは知っているのだ。
たぶん。
そして今日もカミは天井を見上げている。
きっと葛藤しているのだろう。
飛べばおやつに届く。
でも飛べば対策される。
目先のおやつを取るか。
将来の自由を守るか。
うさぎにしては重すぎる選択である。
しばらくすると、カミは空を見上げたまま動かなくなった。
もしかしたら願い事をしているのかもしれない。
「神様」
「なんでしょう」
「おやつが欲しいです」
「じゃあ飛び越えればいいじゃないですか」
「それは嫌です」
「なぜですか」
「飛べるってバレたら面倒なんです」
「何が面倒なんですか」
「次の日にはサークルが高くなります」
そんな会話をしている気がする。
もちろん、カミの考えていることは分からない。
本当は何も考えていないのかもしれない。
ただボーッとしているだけかもしれない。
でも、あの顔を見るたびに思う。
きっとカミは考えている。
「俺、本気出したら飛べるけどな」
と。
そして僕も思う。
「いや、飛ぶなよ。うちの金も明日、飛んでいくことになるからな」
と。