最近、カミを見ていて不思議に思うことがある。
寒いのである。
いや、正確には、
寒いのに寒い場所から動かないのである。
カミの部屋にはヒーターがある。
暖かいし快適である。
うさぎ界でいう高級ホテルみたいなものだ。
それなのに、なぜかカミは部屋の隅っこの少し寒い場所でじっとしている。
耳を立てている。
目もなんだか険しい。
見ているこっちが心配になる。
「寒くないのか?」
と思う。
でも動かない。
「暖かい場所あるぞ?」
と思う。
でも動かない。
なぜだ。
意味がわからない。
そこで僕は考えた。
もしかするとカミは、
修行しているのではないか。
滝に打たれる僧侶みたいに、
寒さに耐えることで精神を鍛えているのかもしれない。
うさぎ界にも悟りを開こうとしている個体がいるのだろうか。
しかし、その可能性は低い。
なぜならカミは、修行僧というより、
おやつの袋が開く音に全力で走ってくるタイプだからである。
ではなぜ動かないのか。
考えていたら、ふと気づいた。
人間も似たようなことをしている。
眠いのに寝ない。
お腹が空いていないのに食べる。
疲れているのにスマホを見る。
トイレに行けばいいのにギリギリまで我慢する。
冷房をつければ快適なのに、
「まだいける」
と言って汗だくになる。
合理的に考えれば意味がわからない。
でもやる。
人間は意外と、
「できること」
と
「やること」
が一致しない生き物なのだ。
そう考えると、カミも同じなのかもしれない。
暖かい場所へ行ける。
でも行かない。
理由は本人しか知らない。
居心地がいいのかもしれない。
なんとなくそこが好きなのかもしれない。
あるいは、
「今はここにいたい」
というだけなのかもしれない。
人間も案外そうだ。
もっと楽な道がある。
もっと簡単な方法がある。
それでも今いる場所にこだわる。
他人から見れば遠回りでも、
本人には大切な場所だったりする。
だから僕は最近、
カミにあまり口を出さなくなった。
寒そうなら心配はする。
でも最後に決めるのはカミだ。
暖かい場所へ移動するかどうかも。
するとしばらくして、
カミは自分のタイミングでヒーターの近くへ移動していた。
やっぱり寒かったらしい。
だったら最初から行けよ。
そう思ったが、口には出さなかった。
人間だって、
散々遠回りしたあとで、
「あのとき素直にやっとけばよかった」
と思うことがある。
カミも僕も、そのあたりはあまり変わらないのかもしれない。
今日もカミは寒そうな顔をしている。
ヒーターまでは三歩だ。
でも動かない。
何か考えがあるのだろう。
あるいは何も考えていないのだろうか?
そのへんは、もう聞かないことにしている。
たぶん本人も説明できないからである。